年間100件近くのカウンセリングを実施しています。カウンセリングの結果、ご主人側の親戚から精子提供を受けてはいかがですか?と提案すると驚かれることが少なくありません。
一度は思いつくものの、ほとんどのご夫婦は現実的でないとして、他の選択肢を探される場合が多いようです。男性不妊であっても、FTM(女性から男性に)の方が旦那さんであっても、その傾向は変わりません。
精子提供カウンセラーとして活動し、女性の立場、男性の立場を理解するにつれて、男性側の親戚から提供をうけることは必ずしも悪くないと感じるようになりました。
今日は、男性側のご家族から精子提供を受ける際のポイントについて考えます。
親戚からの精子提供はむずかしい?
説得の難しさは、誰から提供を受けるか、と、その提供者にもっと近い関係者の掛け算になります。
下の表は、女性(奥様)から見た人物です。難度が低い順に、精子提供をお願いする際のコツを整理します。
精子提供者 | 最も近い関係者 |
義父 | 義母 |
義兄弟(未婚) | 義父母 |
義兄弟(既婚) | 義兄弟の配偶者 |
義叔父 | 義叔母 |
義父
こちらの記事(これから精子提供を検討する人のための精子ドナー候補5つとメリット・デメリット)でも触れている通り、義父は提供者としてもっとも理想的であると考えられます。不安があるとすれば、年齢からくる精子の妊娠力低下です。
一方、精子には問題がなかったとして、次の問題は男性不妊への理解です。高齢になればなるほど、男性原因の不妊に対する理解が低いという調査結果もあります。
不妊の原因の4割以上は男性側にあること、男性パートナーの遺伝子を受け継いだお子さんがほしいことを丁寧に説明してください。
また、言葉を選ばなければいけませんが、義父が先に旅立つことは明確なため、親子関係でもめにくいことも、可能であれば伝えましょう。
義母
義父に精子提供をお願いした場合、そのもっとも近い立場にあるのが義母です。
自分の旦那と、息子(男性パートナー)の嫁の間に子供が生まれるとなれば、一人の女性としては複雑なはずです。
そこで、先に義母から説得するほうが良いかもしれません。ここは義母との関係次第ではあるのですが、同じ女性としての立場から不妊を克服したいこと、男性パートナーにできるだけ近い遺伝子を残したいことを伝えてください。
けして、男性パートナー(=義母の息子)の不妊を非難するようなことは言わないでください。ここ重要です。息子に対する母親の思いれをあまくみてはいけません。
義兄弟(未婚)
義父よりも断然若く、男性パートナーに近い遺伝子であるため、精子の質という点では理想的です。
ただし、今、独身であっても将来結婚する可能性は十分あります。お願いする場合は次の3点を忘れずに議論しましょう。
- 将来、義理兄弟の結婚相手に精子提供の事実を知らせるか否か
- 知らせる場合は未来の結婚相手への伝え方
- 養育費や相続で後々困難を招かないために文書を作成するか否か
すでに婚約者がいた場合、ハードルは高いです。これから結婚するというタイミングで、精子提供を快諾してくれた例はまだお聞きしたことがありません。
義父母
義兄弟に近い関係者は、義父母になります。まだ結婚していない息子が精子提供者になることにネガティブな反応を示す可能性は十分あります。
まずは義兄弟の気持ちを大切に。了解が取れたら、義父母に報告するという流れが良いかもしれません。
義兄弟(既婚)
これまでお聞きしたケースでは、既婚者である義兄弟はまっぷたつです。
つまり、自分も結婚しているからこそ助けたい、反対に結婚しているからこそできない、という反応です。
義兄弟本人が前向きでも、奥さんに判断をゆだねたい、とおっしゃる方も多いようです。それはそうですよね、家族を持っている以上、自分だけでは決められないという考えは自然です。
義兄弟の配偶者
不妊治療の経験有無で変わることが多いようですが、基本的には反対されるとお考え下さい。もし子供がいれば、精子提供で生まれた子供はその兄弟となります。複雑な問題が将来起こるのではないかと、考えることは無理もありません。
もし、不妊治療の経験があったら、反応は変わるかもしれませんが、期待をするべきではないです。
注意点としては、反対される可能性が高いからと言って、義兄弟の配偶者に隠れて精子提供を受けることです。ばれた時点で、もめます。100%もめます。
お二人から了承を取るべきです。
書面化の課題
精子を提供してくれた親戚の不安を解消する意味で、取り決めの文書化は有効かもしれません。
しかし、一方で文書があるからこそ、知ってほしくなかった人物に後から知られてしまうというケースも想定されます。
文書を作るべきか検討した上で、作成する場合は弁護士事務所や貸金庫など保管する場所を選んでください。
まとめ
お願いしていく順番としては、義父を一番最初にするのが良いと思います。身内への精子提供依頼は、その後の人間関係が壊れるリスクを含んでいるため、慎重な判断と、男性パートナーとの議論が重要です。焦らずに検討してみてください。